小説

「青空と逃げる」辻村深月|逃亡生活の末に、家族の形を再確認するロードムービー

run-away-with-sky-tsujimuramiduki

辻村深月さんが描く、新しい親子のカタチ。

不本意な逃亡生活の末に、母と子の答えを見届けられる、そんな作品をご紹介します。

早苗しか知らなかった事実、力がずっと隠していた秘密…

中盤からラストにかけて、少しずつ明かされていき、目が離せません。

また、四万十や家島、別府など、各地の風光明媚な描写も美しく、ただ理不尽なだけではないのが見どころ。

シーア
シーア
「青空と逃げる」を解説します!

「青空と逃げる」の登場人物

  • 本条早苗(母)
  • 本条力(息子)
  • 本条拳(父)

「青空と逃げる」は、母の早苗と、小学5年生の力(ちから)、ふたりの視点で交互に語られます。

ライト
ライト
ひとつの事柄も、それぞれの角度から見ると、また違った印象になるね!

早苗が、母として、人間として、実はとても強かったのだと気付かされます。

また、力も、いつまでも守られるだけの子どもではなく、自分でいろいろ考えて成長しています。

「青空と逃げる」のあらすじ・内容

母と子の日常は、深夜の1件の電話で崩れ去ってしまった…。

劇団員の父・拳(けん)が、共演していた女優の遥山真輝が運転する車で、交通事故に遭ったといいます。

シーア
シーア
ええっ!大変…だけど、既婚者なのに深夜に女優と一緒ってどういうこと?

遥山真輝は、一命をとりとめたものの、顔などに女優を続けられないほどの傷を負ったことで自殺してしまいます。

世間では、ダブル不倫だと騒がれ、力は学校でも陰口を言われたり、居心地の悪い立場に。

拳も怪我をして入院していましたが、早苗の知らない間に退院して、姿を消していたのです。

真輝が所属していた芸能事務所エルシープロは、ガラの悪い連中を使って、拳の居場所を探ろうと、早苗や力の生活を脅かします。

ライト
ライト
運転してたのは真輝だし、自殺したのも真輝なのに、拳にどう責任をとらせるっていうんだろう…?

エルシープロは、理屈の通じない相手だから、何をするかわからない。

力の夏休みの間だけ…と、早苗は友人の聖子を頼って、四万十に逃げてきたのです。

見知らぬ土地で、初めての体験の連続。

しかし四万十へも、エルシープロの追っ手は迫ってきます。

四万十、家島、別府、仙台…ふたりは、各地を転々とすることになるのです。

シーア
シーア
ふたりは、家族は、どうなっちゃうんだろう?
ライト
ライト
それに、お父さん、どこ行っちゃったんだよ…。

逃亡生活の中でも、各地の人とのあたたかなふれあい

シーア
シーア
逃げるのはつらいけど、いろんな土地で人の優しさに触れられたよね。

冒頭では、漁師の息子の遼が、四万十川の伝統的な「柴づけ漁」をするのを、力が手伝う場面から始まります。

早苗は、聖子に紹介してもらった、近くの食堂で働くことに。

次に行った姫路市の家島では、中学生の優芽と出会います。

シーア
シーア
力は、ほんのり恋心のようなものを抱いていた気がするね。

別府は、早苗と拳が、昔劇団の巡業で来たことがある、縁のある場所。

力は、湯治に来ていたおじいちゃんに温泉蒸しをもらったりして交流します。

早苗は、「砂かけさん」といって、温泉を吸った砂の「砂湯」でお客さんに砂をかける役として働き、ひとりの人として尊重してもらう喜びを味わいます。

仙台では、写真館で、震災で流された写真の修復を手伝い、早苗は劇団員時代に身につけたヘアメイクで役に立つことができました。

シーア
シーア
全国紙の読売新聞の連載だから、実際にある風光明媚な土地を作品中に出してほしいってオーダーがあったんだって。
ライト
ライト
新聞連載で、自分の住んでいる土地が出てきたら、きっと読者はうれしいだろうね!

日々のニュースの中にも、それぞれの家族がいることを再認識

私たちは、毎日のように、事件やスキャンダルの報道を見ています。

そのひとつひとつに、容疑者・被害者だけでなく、家族がいるのだという事実を、否応なしに突きつけられます。

シーア
シーア
心のどこかで、ニュースの出来事は別世界…って思っちゃう。

他人はいつも、ニュースの向こうに生身の人間がいることを忘れて、面白がったり批判したり、好き勝手言うもの。

だけど、早苗と力のように、何も悪いことをしていないのに、巻き込まれて悪意にさらされてしまうこともあるのです。

ライト
ライト
傍観者じゃなく、自分ごとにしなくちゃね。

揺らぐ気持ち、家族のカタチ。だけど希望の持てるラスト

シーア
シーア
環境が変わるのって、ただの引越しでも疲れるのに、こんなのつらすぎるよね。

早苗と力は、母子であちこちへ移り住みます。

家族、学校、会社、地域…人間が生きていく中で、周囲と関わることは避けられません。

自分で決めたタイミングですらなく、追っ手に生活を乱されてばかり。

各地でやっと築いてきた人間関係…全て投げ出して逃げないといけない。

悔しさ。恐怖。理不尽さ。やるせない気持ち。

ライト
ライト
なぜ自分たちが…って思うよね。

だけど、たどり着いたのは、希望が持てるラスト。

旅路を思い返す、早苗と力の心には、四万十でお世話になった漁師の父子、家島で会った中学生、別府で一緒に砂かけをした仲間たち、みんなの顔が浮かんでいたから。

シーア
シーア
読み終わったあとは、なんだか気持ちが明るくなりますよ!

早苗と力は、奪われるばかりではなく、未来の選択肢を手に入れた

シーア
シーア
早苗と力は、奪われてばかり…せっかくなじみ始めた生活も、新しい仕事も、人間関係も…。

読み進めるにつれ、やるせなく感じていました。

だけど、最後に気づきました。

早苗も、力も、自分で自分の行く先を決められるんだって。

誰かに追われて逃げる日々の中で、少しずつ生きるチカラを身につけて、未来の選択肢を手に入れたんです。

ライト
ライト
奪われた代わりに、得たものもあったんだね!

この逃亡の期間は無駄じゃなかったと、確信できる結末でした。

辻村深月作品の醍醐味!「青空と逃げる」にも過去の作品とのリンクがあった

シーア
シーア
辻村深月さんといえば、他の作品とのリンクを見つけるのが毎回楽しみ!

辻村深月さんの小説は、ひとつの作品の主人公が、別の作品にも登場することがよくあります。

本という物理的な垣根を超えて、世界がつながっているのが魅力。

ライト
ライト
チョイ役のときもあれば、重要な役どころだったり…いろいろだね。

つながりに気づけるのは、辻村深月作品を複数読んでいるファンだからこそ。

「青空と逃げる」には、「島はぼくらと」「傲慢と善良」に登場した人たちが出てきます!

リンクを見つけてさらに楽しめる、関連作品もどうぞ!
「島はぼくらと」辻村深月|ふるさとを離れた方にオススメ。離島に暮らす高校生4人の青春小説辻村深月は、10代の心の機微を描いたら最強の作家。「島はぼくらと」は、離島に暮らす高校生4人の青春小説です。もうすぐそれぞれの進路へ旅立つ…一緒に過ごせる最後の時間。中心となる登場人物は高校生4人。幻の脚本を追って小さな冒険を中心に、過疎化、医師不足…離島の問題点も描かれます。...
arrogance-and-goodness
「傲慢と善良」辻村深月|真の自立とは何か? 結婚・婚活の価値観を問う30代の主人公たちの、結婚にまつわる自意識や自我、周囲との対立、自立を描いた作品。他人に点数をつけるなんて、はしたない…そう教えられてきたのに、いざ結婚適齢期になると、恋愛の駆け引きや、人を値踏みすることを覚えないといけない。人生って、綺麗事じゃない。生きる苦しみや辛さに寄り添うような、新たな代表作の誕生です。...

もしかしたら、早苗と力は、他の辻村作品にもゲスト出演する日が来るかもしれませんね。

「青空と逃げる」は、家族のカタチを再確認させてくれる小説

生きているなら、やり直せる。別の道も選べる。

シーア
シーア
震災にふれるストーリーのあとで聞くと、ズシンと重いよね…。

早苗も力も、いろんなものを奪われたけれど、しっかり自分の足で立って、生きています。

だから、何度でも立ち上がれるし、場所が変わっても大丈夫。

最後に思い返す日々の中に、これまで通り過ぎてきた各地の、いろんな人のあたたかさが、全部詰まっています。

関連記事

家族のあり方はさまざまで、決まったカタチがないもの。

そんな家族にまつわる小説を集めました。

family-novel
家族がテーマのおすすめ小説12選【愛と感動、ときどき葛藤】離婚や死別、シングルやステップファミリーなど、家族のあり方が多様化している現代。身近すぎて、ときに甘えすぎてしまったり、壊れそうになったり…家族って、意外と儚いものなのかもしれません。また、血のつながりがなくても家族といえる関係も。さまざまな家族小説をご紹介します。...
ABOUT ME
シーア
年間120冊の本を読んできた経験から、おすすめの本をご紹介します。 「絵本講師」の資格を持っています。大人にも子どもにも絵本の魅力をお伝えしたい! 夫・男子ふたり・犬と暮らすワーキングマザー。 仕事も読書も育児も、自分のやりたいことを全部諦めない、欲張りさんです。好奇心旺盛で、いろんなことに興味があります。
【Kindle】スマホで読書をはじめよう
シーア
シーア
小説もビジネス書も、全部自分のスマホ1台で読めるよ!

本を読みたいけれど、かさばるから持ち運びにくい、置く場所がない…とお悩みの方には「Kindle」がおすすめ。

いつでもどこでも、片手で読めるから便利。

私は、防水のiPhoneをお風呂に持ち込んで、Kindleで読書しています。

日替わり・週替わり・月替わりでセールがあるほか、Kindle Unlimitedでは、月額980円(30日間無料)で読み放題のタイトルもあるので、チェックしてみて下さいね。

ライト
ライト
紙の本よりもちょっと安いのもいいところ!