辻村深月さんが描く、新しい親子のカタチ。
不本意な逃亡生活の末に、母と子の答えを見届けられる、そんな作品をご紹介します。
早苗しか知らなかった事実、力がずっと隠していた秘密…
中盤からラストにかけて、少しずつ明かされていき、目が離せません。
また、四万十や家島、別府など、各地の風光明媚な描写も美しく、ただ理不尽なだけではないのが見どころ。
「青空と逃げる」の登場人物
- 本条早苗(母)
- 本条力(息子)
- 本条拳(父)
「青空と逃げる」は、母の早苗と、小学5年生の力(ちから)、ふたりの視点で交互に語られます。
早苗が、母として、人間として、実はとても強かったのだと気付かされます。
また、力も、いつまでも守られるだけの子どもではなく、自分でいろいろ考えて成長しています。
「青空と逃げる」のあらすじ・内容
母と子の日常は、深夜の1件の電話で崩れ去ってしまった…。
劇団員の父・拳(けん)が、共演していた女優の遥山真輝が運転する車で、交通事故に遭ったといいます。
遥山真輝は、一命をとりとめたものの、顔などに女優を続けられないほどの傷を負ったことで自殺してしまいます。
世間では、ダブル不倫だと騒がれ、力は学校でも陰口を言われたり、居心地の悪い立場に。
拳も怪我をして入院していましたが、早苗の知らない間に退院して、姿を消していたのです。
真輝が所属していた芸能事務所エルシープロは、ガラの悪い連中を使って、拳の居場所を探ろうと、早苗や力の生活を脅かします。
エルシープロは、理屈の通じない相手だから、何をするかわからない。
力の夏休みの間だけ…と、早苗は友人の聖子を頼って、四万十に逃げてきたのです。
見知らぬ土地で、初めての体験の連続。
しかし四万十へも、エルシープロの追っ手は迫ってきます。
四万十、家島、別府、仙台…ふたりは、各地を転々とすることになるのです。
逃亡生活の中でも、各地の人とのあたたかなふれあい
冒頭では、漁師の息子の遼が、四万十川の伝統的な「柴づけ漁」をするのを、力が手伝う場面から始まります。
早苗は、聖子に紹介してもらった、近くの食堂で働くことに。
次に行った姫路市の家島では、中学生の優芽と出会います。
別府は、早苗と拳が、昔劇団の巡業で来たことがある、縁のある場所。
力は、湯治に来ていたおじいちゃんに温泉蒸しをもらったりして交流します。
早苗は、「砂かけさん」といって、温泉を吸った砂の「砂湯」でお客さんに砂をかける役として働き、ひとりの人として尊重してもらう喜びを味わいます。
仙台では、写真館で、震災で流された写真の修復を手伝い、早苗は劇団員時代に身につけたヘアメイクで役に立つことができました。
日々のニュースの中にも、それぞれの家族がいることを再認識
私たちは、毎日のように、事件やスキャンダルの報道を見ています。
そのひとつひとつに、容疑者・被害者だけでなく、家族がいるのだという事実を、否応なしに突きつけられます。
他人はいつも、ニュースの向こうに生身の人間がいることを忘れて、面白がったり批判したり、好き勝手言うもの。
だけど、早苗と力のように、何も悪いことをしていないのに、巻き込まれて悪意にさらされてしまうこともあるのです。
揺らぐ気持ち、家族のカタチ。だけど希望の持てるラスト
早苗と力は、母子であちこちへ移り住みます。
家族、学校、会社、地域…人間が生きていく中で、周囲と関わることは避けられません。
自分で決めたタイミングですらなく、追っ手に生活を乱されてばかり。
各地でやっと築いてきた人間関係…全て投げ出して逃げないといけない。
悔しさ。恐怖。理不尽さ。やるせない気持ち。
だけど、たどり着いたのは、希望が持てるラスト。
旅路を思い返す、早苗と力の心には、四万十でお世話になった漁師の父子、家島で会った中学生、別府で一緒に砂かけをした仲間たち、みんなの顔が浮かんでいたから。
早苗と力は、奪われるばかりではなく、未来の選択肢を手に入れた
読み進めるにつれ、やるせなく感じていました。
だけど、最後に気づきました。
早苗も、力も、自分で自分の行く先を決められるんだって。
誰かに追われて逃げる日々の中で、少しずつ生きるチカラを身につけて、未来の選択肢を手に入れたんです。
この逃亡の期間は無駄じゃなかったと、確信できる結末でした。
辻村深月作品の醍醐味!「青空と逃げる」にも過去の作品とのリンクがあった
辻村深月さんの小説は、ひとつの作品の主人公が、別の作品にも登場することがよくあります。
本という物理的な垣根を超えて、世界がつながっているのが魅力。
つながりに気づけるのは、辻村深月作品を複数読んでいるファンだからこそ。
「青空と逃げる」には、「島はぼくらと」「傲慢と善良」に登場した人たちが出てきます!
もしかしたら、早苗と力は、他の辻村作品にもゲスト出演する日が来るかもしれませんね。
「青空と逃げる」は、家族のカタチを再確認させてくれる小説
生きているなら、やり直せる。別の道も選べる。
早苗も力も、いろんなものを奪われたけれど、しっかり自分の足で立って、生きています。
だから、何度でも立ち上がれるし、場所が変わっても大丈夫。
最後に思い返す日々の中に、これまで通り過ぎてきた各地の、いろんな人のあたたかさが、全部詰まっています。
関連記事
家族のあり方はさまざまで、決まったカタチがないもの。
そんな家族にまつわる小説を集めました。
本を読みたいけれど、かさばるから持ち運びにくい、置く場所がない…とお悩みの方には「Kindle」がおすすめ。
いつでもどこでも、片手で読めるから便利。
私は、防水のiPhoneをお風呂に持ち込んで、Kindleで読書しています。
日替わり・週替わり・月替わりでセールがあるほか、Kindle Unlimitedでは、月額980円(30日間無料)で読み放題のタイトルもあるので、チェックしてみて下さいね。