三木笙子「世界記憶コンクール」雑誌記者と天才絵師のライトミステリー【帝都探偵絵図シリーズ2】【あらすじ・感想】

こんにちは。シーアです。(@seer_1118

世界記憶コンクール 〜世界観をより深堀りした2作目〜

  • 内容紹介(Amazonより)

ある日、萬朝報に載った『記憶に自信ある者求む』という求人広告。見たものを瞬時に覚えられる博一は、養父の勧めもあって募集に応じた。見事採用となり、高い給金を得て記憶力の訓練を受けていたのだが―。

心優しき雑誌記者と超絶美形の天才絵師、二人の青年をはじめ明治の世に生きる人々の姿を人情味豊かに描いた、「帝都探偵絵図」シリーズ第二弾。表題作を含む五話収録。

 

脇役にスポットライトを浴びせて、浮かび上がる主役たち

雑誌記者の里見高広と、天才美形絵師の有村礼のふたりが、「腰の低いホームズと高飛車なワトソン」として、数々の事件を解決していく「帝都探偵絵図シリーズ」。

シリーズ2作品目は、彼ら二人ももちろん登場しますが、それよりも彼らを取り巻く脇役たちにスポットライトを浴びせています。

いえ、脇役と呼ぶのは語弊があるかもしれません。彼らが過ごす、明治時代の東京では、本当に彼ら一人一人の生活があり、人生があるのではないかと思わせてくれるような作品たちです。

個性豊かな彼らと交わることで、主役の高広と礼が、さらに輝けるのです。

5つの短編を収録 〜おすすめは「黄金の日々」〜

本作では、表題作の「世界記憶コンクール」をはじめ、5作品からなる短編集です。

  • 第一話 世界記憶コンクール
  • 第二話 氷のような女
  • 第三話 黄金の日々
  • 第四話 生人形の涙
  • 第五話 月と竹の物語 ※文庫版のみ

5作品中2作品が、高広と礼以外の登場人物の視点から語られます。

同じ世界の別のシーン・別の時間軸で起こっているお話なので、よりリアリティが増して、彼らが愛おしく感じられます。

第一話 世界記憶コンクール

質屋の養子の博一は、見たものをまるごと覚えられる特技を持っていて、記憶力を競うコンクールと題した求人広告で見事採用されました。

しかし、1ヶ月がたったある日、唐突に依頼主からの連絡が途絶えます。何かの犯罪の片棒を担がされたのだろうか?と不安になった博一は、友人の高広に相談を持ちかけます。

父と子の関係は、このシリーズの大きなテーマです。博一は、学才を持ちながら、貧乏な質屋を継ごうとしています。

義父が、連れ子の自分には、店を継がせたくはないのではないか?などと考えながら…でも、人の思いはすれ違います。型にはめようとするから余計にこじれるのです。

普段は自信満々で傍若無人な礼が、事件の首謀者と対峙したときに、ほんの少し弱い部分を覗かせたのが、グッと来ました。(犯人がわからないように引用します)

「神仏が駄目だと言っても、聞こえないふりをしていれば良かったんだ」

「私は有村先生のような才能には恵まれていませんでしたから」

「そうだな」

礼の表情は見えない。(中略)炎が揺れた。

「だが、貴方の気持は分かる」

思いがけないほど弱い声で、礼はそう言った。

第二話 氷のような女

高広の義父で、司法大臣の里見基博の、若かりし頃。妻よし乃との出会いのお話です。

今でこそ、国家の重要な役職に就いた基博ですが、若い頃はなかなか芽が出ず、国費でフランスに留学して法律を学んだのに、活かす場がなく苦労していました。

基博は、コレラ菌が混入している悪水氷を売りさばく犯人を探します。

勘と推理が冴えていて、それでいて優しく、高広に近いものを感じます。血はつながっていないのに、親子です。犯人にかける言葉も…。

「俺とあんたは似てるよ。でもあんたは間違った。だから俺はあんたを止めるよ」

よし乃はお茶目でかわいい人です。こんななれそめがあって、高広の現在につながっていくのですね。

第三話 黄金の日々

前作「人魚は空に還る」の第一話「点灯人」で登場した、森恵(ひさし)が、再び登場します。

成長した恵は、東京美術学校に通うことになります。

同級生の唐澤幸生は、伝説的な陶工の息子ですが、実の父親は英国人で、混血です。才能があるのに、口が悪く、人との間に壁を作る幸生ですが、恵とは徐々に打ち解けていきます。

恵は、家庭環境でつらい経験をしてきたからか、同級生に対してオトナな態度です。

過去の事件の折に、高広や礼がかけた言葉が、今も恵の胸の中に残っていて支えになっていることが、なんだか自分のことのように嬉しいです。

幸生の義父の唐澤清山が残した、久尻焼の釉薬の製造法について知りたいと、多くの人間が近づいてきます。

人を信じること、疑うこと、自分を守ること…そのどれもが、自分ひとりでは成し遂げられません。同じ志を持つ仲間は、大切な存在です。

第四話 生人形の涙

ここで再び、語り部が高広に戻ります。記者らしい仕事をしているシーンから始まるのは珍しい(笑)。

英国国王の名代として来日したアーリントン卿は、幕末に日本に滞在していたことがあった人物です。

高広は、アーリントン卿から、静聴と名付けた人形がしゃべって動いたという、不思議な昔話をします。この謎が解けたら、使節団の裏話を聞かせてくれるというのです。

高広と礼との出会いのシーンが最後に登場します。前作「人魚は空に還る」では、冒頭からすでにコンビ感があったふたりですが、ここから始まったのか…と感慨深いものがあります。

第五話 月と竹の物語 ※文庫版のみ

広告として礼の絵を飾った小間物屋・なよ竹では、毎日礼の絵を見に来る男が立っていました。

そんな折、店内にあった金塊が盗まれます。犯人は、毎日絵を見ていたあの男では?

高広は、犯人に怒っていますが、「盗みのために礼の絵を利用するなんて」と、怒る方向がちょっと変。礼の絵に心酔する高広は、まるで恋してるみたいで微笑ましいです。

「誰だって金塊のほうがいいだろう」

「俺は礼の絵のほうがいい」

「そんなのはお前くらいだ」

決してBLではないのだけど、お好きな方はそういう見方でもお楽しみ頂けます。

私はその趣味はないので、純粋に信頼と友情と、美しいものを作り出すことへの敬意だと受け取っていますけどね。

 

悲しい出来事よりも、美しく豊かなもので心を満たそう

明治は、まだまだ維新の余波が残る時代です。伝染病や、両親を失った子ども、貧困、進学の可否、男女や家柄での差別…

人の世の欲や、心の貧しさの前では、礼の絵のように美しいものも目に入りません。それはあまりにも哀しいことです。嘆く高広に、礼は言います。

「違う話にしてしまえばいい。お前が気に入るようにな」

気に入らないなら、現実を書き換えてしまえばいい。自分が良しと信じたものを、美しいものを生み出せばいい…

なるほど、みんながそうすれば世界は善いものになります。高広が望むとおりに。

いつか高広が、自分の手で世の中を変えていく日が来るでしょうか?

巻末の帝都探偵絵図シリーズ人物相関図が秀逸!

文庫版の巻末には、人物相関図がついています。短編に散らばった登場人物たちをつなげてくれて、わかりやすかったです。

帝都探偵絵図 人物相関図

次作「人形遣いの影盗み」では、怪盗ロータスが再び登場するほか、高広が住まう下宿の大家、梨木桃介が主役の短編もあります。

桃介は、表題作「世界記憶コンクール」で、ナイスアシストしているので、印象に残ります!

 

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帝都探偵絵図シリーズは、1作品ごとに紹介記事を書いています。

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