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「ライフ」小野寺史宜|自分には何もない、を切り開く小説【あらすじ・感想】

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自分には何もない、と感じたことはありますか?

シーア

私は何度もあるなぁ…。だって、なんの才能も特技もないもん。

「自分の人生って、こんなもんなんだ」と諦めたようでいて、「ずっとこのままでいいのか」と焦る気持ちもあって。

そんな感情に覚えがある方には、小野寺史宜さんの「ライフ」をおすすめします。

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小野寺史宜さんは、「ひと」で2019年本屋大賞2位に輝いた、注目の作家。

ひと|小野寺史宜
「ひと」小野寺史宜|ひとりになって感じる、人間のあたたかさ。【本屋大賞2位】ひとりだけど、ひとりじゃなかった。 人のあたたかさを再確認できる、そんな小説をご紹介します。主人公の柏木聖輔は、決して恵まれた境遇ではないのに、誰のことも恨まないし、真面目で、フラットで、誠実な青年。この作品は、最後の一行にすべてが詰まっています。「この一言のために、私はこの本をたどってきたんだ」と心から感動しますよ。...

やりたい仕事じゃなくても、フリーターでも、ひとりで生きていけるけれど、周囲の人と関わることで、自分を深く知ることができる…そんな当たり前のことに気づかせてくれます。

ライト

「ライフ」を解説するよ!

小野寺史宜さんの小説のまとめ記事はこちら
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小野寺史宜のおすすめ作品4選|あらすじ・感想レビュー小野寺史宜さんの作品を、あらすじや感想を交えて、個人的おすすめランキング形式でご紹介します。「人」にフォーカスした視点が特徴。家族やご近所さん、友達…いろんな人が関わって、「ひとりじゃない」と感じさせてくれます。派手な事件は起きないけれど、しみじみと「読んでよかったな」と思える作品ばかり。「ひと」が2019年本屋大賞2位に輝き、今後にも期待が高まります。...

「ライフ」小野寺史宜|主人公・井川幹太

「ライフ」の主人公は、大学時代から筧ハイツでひとり暮らしをする井川幹太

幹太は、最初の就職でも、転職先でも、うまくやっていけず、停滞した日々を過ごしていました。

同じ大学だった仲間は、みんな就職してここを出ていったのに、自分だけはずっとここにいる…。

コンビニバイトと、単発の結婚式の代理出席のバイトでなんとかやりすごしています。

ある日の代理出席バイト中、高校時代の同級生、萩森澄穂と再会します。

シーア

サクラみたいなバイトだから、ほんとならバレたらダメだし、気まずいよね…!

ふたりが近況を話しているとき、澄穂の言葉が印象的でした。

やりたいことがあるのにやれなかった人と、やりたいこと自体を見つけられなかった人、どっちがいいんだろうね。

幹太と澄穂は、ときどき連絡を取りあうようになり、そこから周囲の人との関わりが増えていきます。

「ライフ」小野寺史宜|戸田さん一家との関わり

幹太は、上の階の「がさつくん」の騒音に悩まされています。

よっぽど苦情を入れようか迷いますが、真上の部屋の住人、戸田さんたちと親しくなり、余計言い出せなくなってしまうのです。

戸田さん一家
  • 愛斗…一時の気の迷いで浮気をして、別居中。ひとりで筧ハイツに住んでいる。
  • 藍奈…戸田の妻。美容師で、仕事の日は子どもを預けにくる。
  • 朱奈…6歳の女の子。いろいろわかってくるお年頃。
  • 風斗…4歳の男の子。無邪気でかわいい。

筧ハイツは単身向けのアパートなので、住んでいるのは、お父さんの戸田愛斗さんだけ。

シーア

それなのに、なんでこんなに足音がうるさいの?

騒音がひどいのは、奥さんの藍奈さんが仕事の日は、子どもたちを預かるから。

ライト

別居していても、完全に交流がないわけじゃなくて、ちゃんとお父さんの役割をこなしてるんだね。

戸田さんは、階下への音に無頓着でいい加減だけど、人懐っこい性格。

初対面から、幹太の下の名前を聞いてきて「カンちゃん」と呼び、グイグイ入り込んできます。

子守や相談役など、夫婦喧嘩に巻き込まれつつも、ひとりで暮らしていた幹太にとって、きっと頼られるのは嬉しかったはず。

シーア

ひとりだけど、ひとりじゃなかった…って、前作「ひと」を読んだときにも思ったような気がするよ。

「ライフ」小野寺史宜|両親への思いと葛藤

幹太の父親は、浮気をしていましたが、離婚しようと話し合っていた矢先にガンで亡くなりました。

母親はそのあと再婚し、幹太はひとり暮らしを始め、実家のあった場所にはもう誰もいません。

シーア

なんだか…全部よくないことだけど、丸く収まっちゃってる感じが居心地悪いね。

母が再婚した草間家は、とてもいい人たちで、幹太を草間工務店で雇ってもいいと言ってくれています。

だけど…なんだかしっくりこなくて、その話に乗れないんです。

ライト

一緒に働くとなると、やっぱりためらう気持ちは分かる気がするよ。

「ライフ」小野寺史宜|人との交流で成長していく

近くに住んでいても、関わりがなければ存在していないのと同じこと。

名前を知って、人となりを知って、初めてその人の人生に触れ合ったことになります。

幹太は、最終的に、筧ハイツの住人全員と知り合うことになります。

お隣は、ライターの中条さん、その隣は、女優のタマゴの坪内さん。

ライト

大学時代から9年も同じところに住んでいるからこそだよね。

他にも、バイト先のコンビニの七子さん、近所の高校生の郡くん、喫茶『羽鳥』の菊子さん、父の浮気相手だった船木雅代さん…。

いろんな人が、幹太の人生に関わっています。

人の成長って、目に見えるものではなく、こうして人と人との関わりで少しずつ変わっていくもの

大きな事件が起こるお話ではありませんが、だからこそリアリティがあるのです。

筧ハイツでの暮らしは、自分は何者なのかを考える期間

幹太は、コンビニのバイトも卒なくこなすし、どんな相手とも普通に会話ができるし、仕事ができないようには思えません。

だけど、大学を卒業して就職した製パン会社を辞め、転職先の家電量販店も辞め、挫折を味わいます。

パンが好きだから、と就職してもダメで、それならたいして好きでない仕事を割り切ってやろう、と転職してもダメでした。

シーア

私には、幹太は「できない奴」だとは思えないし、幹太自身もきっとそうだったはず。

それでも、環境や相性や、いろんな影響で、うまくいかないことってあるんです。

そんなとき、澄穂と再会したり、戸田さん親子と親しくなったり…人との接点が増え、幹太の人生が動き出します。

「ライフ」というタイトルは抽象的だけど、ひとつひとつの関わりのくりかえしこそが、人生(=ライフ)なのかもしれません。

幹太が、澄穂に言った言葉が印象的でした。

「何者でもない誰かになるのは、そう楽しくもないから」

何度か挫折しても、幹太は自分を捨てるほど絶望しなかったし、代理出席のバイトをしても、誰か別人になりたいとも思わなかったのです。

シーア

それって、実はすごいことだし、幹太って芯が強いのかもしれないね。

筧ハイツが舞台の関連作品「まち」小野寺史宜

小野寺史宜さんの小説は、登場人物がクロスオーバーしているのが特徴。

「ライフ」の主人公、井川幹太は、「まち」にも登場しています。

まち」の主人公の江藤瞬一は、じいちゃんの言葉を胸に、故郷を離れて筧ハイツで暮らしています。

シーア

つまりご近所さんってわけだね。

ライト

どんな関わり方をしているのかは、実際に読んでみてね。

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「まち」小野寺史宜|人とつながりながら強く優しく生きる。等身大の成長ストーリー群馬の田舎で暮らすじいちゃんの言葉に背中を押されて、高校卒業と同時に上京した青年の、まっすぐでひたむきな成長ストーリー。小野寺史宜さんの描く人物は、ありのまま等身大の姿を見せてくれます。両親を亡くした痛みを抱えているけれど、それだけにとらわれていないところもリアル。2019年本屋大賞第2位の「ひと」と対をなす、新たな青春小説です。...

「ライフ」小野寺史宜|自分には何があるのかを模索する小説

自分には才能がある、この道を選ぼう、と心に決められる人は、幸せなのかもしれません。

だけど、人生ってそんなに単純じゃなくて、立ち止まったり迷ったりするもの。

自分には何もない、かもしれないけれど、それでも誰かと関わりながら暮らすことはできます

幹太の自然な変化を見届けて、自分自身の人生を見つめ直すきっかけにしてくださいね。

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小野寺史宜さんの小説は、ひとりの人間が、人と触れ合って関わり合って成長していく様子を、つぶさに見せてくれます。

「ひと」が2位になった、2019年本屋大賞のノミネート作品をまとめてご紹介しています。

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【2019年本屋大賞】全部おすすめ!大賞受賞作&ノミネート作品の感想・レビューまとめ本屋大賞は、書店員さんが売場からベストセラーを生み出そうという意図で設立されたもの。どれも面白くてハズレなしの名作ばかり!2019年の本屋大賞の大賞受賞作&ノミネート作品と、レビュー記事をまとめました。1位「そして、バトンは渡された/瀬尾まいこ」2位「ひと/小野寺史宜」3位「ベルリンは晴れているか/深緑野分」など...
他にも、小野寺史宜さんの作品をご紹介しています。

ABOUT ME
シーア
年間120冊の本を読んできた経験から、おすすめの本をご紹介します。 「絵本講師」の資格を持っています。大人にも子どもにも絵本の魅力をお伝えしたい! 夫・男子ふたり・犬と暮らすワーキングマザー。 仕事も読書も育児も、自分のやりたいことを全部諦めない、欲張りさんです。好奇心旺盛で、いろんなことに興味があります。
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