その気になれば、砂漠に雪を降らせることができるかもしれない。
そんな夢みたいなことを本気で叶えようとする、大学生たち5人の青春物語をご紹介します。
- 東西南北の苗字でつながった、大学生5人の青春
- 超能力が当たり前に存在する
- 西嶋の類まれなる変人力
- プレジデントマンとの対決
- 最後は晴れやかな気分で読後感爽快!
「砂漠」伊坂幸太郎|この1冊で世界が変わる、かもしれない
先代の大学で出会った、5人の男女が主人公です。
ボウリング、合コン、麻雀などの、大学生らしいイベントだけでなく、通り魔犯との遭遇事件や、超能力対決などの非現実的な出来事も起こります。
ありえないことを真剣に語れば、本当にそれが叶うような気がする…
彼らが経験した出来事や事件が、形のない絆を作っていきます。
未熟だけど、成長しながら、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする彼らから、目が離せません!
個性的な大学生たち5人の、小さな青春と冒険
メインとなるのは、仙台の国立大学の法学部に入学したばかりの大学生5人です。
- 北村…主人公。物事から少し距離を置くタイプの俯瞰型人間。
- 鳥井…軽薄で適当で、自信満々の代名詞。やませみみたいな髪型。
- 南…おとなしくて控えめな女の子。超能力が使える。
- 西嶋…極端に熱い、自由な変人。平和を実現したい。何事にも臆さない。
- 東堂…絶世の美女。滅多に愛想を振りまかない。
麻雀が物語の鍵。麻雀を知らなくても楽しめる!
彼らが親しくなったのは、麻雀がきっかけです。
西嶋は、これまで北村と直接会話する機会もなかったのに、「北村、やろうぜ」以前からの友人だったかのように唐突に麻雀に誘います。
北村は「その一、僕は麻雀を知らない。その二、講義は休みたくない」と、冷静に理由を述べて断ります。
しかし、翌日、今度は鳥井に強引に誘われ、家へ連れて行かれます。
僕の頭に閃くものがある。「そういえば、麻雀って確か、四人でやるんだよね。でもって、東西南北に振り分けるんじゃなかったっけ」
「鋭い」
「僕の名字に、北って字が付くとかそういう理由じゃないよね」
「正解! おめでとう」鳥井が両手を広げ、僕を抱きしめてこようとする。ので、よけた。
鳥井の家には、言い出しっぺの西嶋に加え、東堂と南も呼ばれていました。
東西南北が名前に付く人だけを集めて麻雀をする、というのが西嶋の発案です。
西嶋は、平和(ピンフ)という役で上がることを目指しています。
そうすることで、戦争をなくし、世界の平和を築こうとしているのです。
大真面目にそんなことに挑戦するのだから、全く意味が分かりません。
西嶋はかれこれ二時間以上もの間、必死に、「平和」を築いている。途中まで築いては壊し、完成間近に邪魔をされては嘆き、点棒は次々と減っていくにもかかわらず、方針を変えなかった。「平和にならない平和にならない。変だ変だ」とぶつぶつ言っている。
「砂漠」伊坂幸太郎|超能力が身近な世界観
麻雀に勝つのは、たいてい南です。
南は麻雀が異様に強いだけでなく、スプーン曲げができたり、物を動かすことができます。
それも、大げさにやるのではなく、恥ずかしがったりするのがかわいいんです。
超能力が当たり前みたいな感じで、そばにあります。
珍しがって、大騒ぎして、テレビに出たりする人もいれば、南のようにひっそりと能力を持っている人もいます。
超能力は、物語を動かすひとつの要素になります。
でも、超能力があったからといって万能ではなく、できないこともあり、無力さを感じることもあるのです。
「砂漠」伊坂幸太郎|プレジデントマンとの対決
冒頭から、仙台で起こっている連続通り魔事件についてたびたび話題になります。
中年の男性に「お前は大統領か」と聞いて、暴行して金を奪う。
西嶋が言うところの通称「プレジデントマン」です。
西嶋はプレジデントマンにシンパシーを感じています。
大統領を成敗すれば戦争が止められると信じて、社会を憂いて行動しているプレジデントマンを支持すると言い張っています。
鳥井の「仙台で何年待っていても、アメリカ大統領は現れないだろ」とか「西嶋はまず、平和(ピンフ)を上がれよ」というツッコミに笑ってしまいます。
まともで的確なことも言うのに、その中に「そこかよー」と言いたくなるようなセリフがあるんですよね。
大学4年間には、悲しい事件ややりきれないこともありながら、明るくたくましく生きる彼らを、応援したくなるのです。
「砂漠」伊坂幸太郎|熱烈なファンが多い作品
伊坂幸太郎さんは、超有名作家ですが、その中では「砂漠」の知名度は低いほうでしょう。
「ゴールデンスランバー」などと比べたら、あまり知られていません。
2005年12月に単行本で刊行されて、2008年8月にJノベルコレクション、2010年7月に新潮文庫と、何度か違うレーベルで文庫本化しています。
そして、2017年10月に、再び実業之日本社文庫から新装版で発行されています。
新装版のあとがきに書かれていましたが、伊坂幸太郎さんが読者から「作品の中でいちばん好きです」と書名を挙げられるときに「砂漠」の名前が上がることが多いそうです。
刊行以来、映像化などの華々しい話題はないにもかかわらず、非常に愛されている作品です。
モラトリアム時代の贅沢な時間を、全力で馬鹿馬鹿しく楽しむ
この作品が愛される理由。
それは、大学時代特有のモラトリアムの贅沢な時間を、麻雀やボウリングやプレジデントマンとの戦いなど、ありそうでなさそうな出来事に費やして楽しんでしまう、ある種の馬鹿馬鹿しさが愛おしいからではないでしょうか。
期間限定のきらめく時間なのに、彼らはセンチメンタルになることもなく、徹底的に無邪気に楽しみきります。
こんな大学時代が過ごしたかったな、彼らは一生モノの仲間だろうな、と羨ましくなります。
ウィットに富んだ会話が面白く、読者も無邪気に笑えます。
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