現代を生きる私たちは、本当の意味では戦争の凄惨さを知りません。
戦争の影響を受けて人生が変わった人は、戦時中や戦後だけでなく、今に至るまでたくさんいます。
この記事では、直接的・間接的問わず、戦争にまつわる小説を5冊ご紹介します。
日本だけでなく、ドイツが舞台の作品もあり、こんなところにまで影響があるんだ、と驚くことも。
戦争は良くない、なんて言葉で語られるよりも、ずっと真に迫りますよ。
戦争に翻弄される人を描いた本まとめ
戦争に翻弄された人や、人生を狂わされた人を描いた作品を、5冊ご紹介します。
おおまかに年代順にしているので、上から順に読んでいくと、日本の戦時中から海外の状況、戦後長い間にわたる影響をつかむことができます。
過去(戦時中)と、現代のシーンを行き来しながら進む作品もありますが、参考までに。
積極的に戦争に関する本を選んできたわけではない私でも、いくつもの作品で戦争に触れてきました。
それだけ、本の題材にされることも多く、人の心を打つテーマであることは間違いありません。
「永遠の0」百田尚樹|家族の絆が胸に迫る、映画化された感動作
V6の岡田准一さん主演で映画化されたことでも有名な作品。
終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の宮部久蔵について調べていました。
祖父は、「娘に会うまでは死ねない」と言いながらも、自ら零戦に乗って命を落としたのです。
戦時中だから、やむを得ない事情があったとは思うものの、祖父の過去を知れば知るほど、「一体なぜ…?」と謎が浮かび上がります。
戦時中の日本は、国民全員が洗脳されたかのように戦争に燃えているイメージでした。
でも、全然そんなことなかった…今を生きる私たちと同じ。
盲信的にお国のために死んだのではなく、ひとりひとりに家族や愛する人がいて、感情や葛藤があって、生きたくて仕方ないのに死んだのです。
戦争してはいけない、と言葉で言うよりも、説得力をもって胸に迫る作品です。
「熱源」川越宗一|樺太アイヌとポーランドの文化を守る戦い
樺太(サハリン)で生まれたアイヌのヤヨマネクフと、ロシアに飲み込まれそうなポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキ。
彼らは、ただ、生まれ育った場所で、ありのままの文化で、穏やかに暮らしたいと願っていただけ。
そんなささやかな希望すら、侵略や戦争により、かなわなかった…。
故郷を追われ、文化を奪われ、母国語を禁じられても、守りたいもののために戦う歴史の物語です。
直木賞受賞作で、2020年本屋大賞にもノミネートされている、今いちばん熱い作品。
「ベルリンは晴れているか」深緑野分|理不尽な時代を懸命に生きる少女を描く
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1945年、第二次世界大戦が終わったばかりのドイツが舞台。
ナチス・ドイツは戦争に破れ、アメリカ・ソ連・イギリス・フランスの4ヶ国の統治下に置かれる、混乱した状況でした。
17歳の少女アウグステは、恩人のクリストフの殺人容疑をかけられます。
死因は、毒入りのアメリカ製歯磨き粉。
アウグステはアメリカ人兵士の食堂で働いていたので、支給品で手に入れることができる立場だったのです。
釈明の末、一時解放されたアウグステは、恩人の甥を探して旅に出ます。
ストーリーの合間に、アウグステの過去が語られながら、物語は進みます。
ユダヤ人は迫害され、ドイツ人もユダヤ人をかばった罪で逮捕される…。
当時のドイツの惨状が、生々しく、まるで見てきたかのようにリアルに描かれていて、目を背けたくなるほど。
生か死かを選ばないといけない状況に迫られたら、誰だって、ふとしたことで悪に染まりうるのです。
「美しき愚かものたちのタブロー」原田マハ|日本に美術館をつくるための戦い
松方幸次郎は、実在の人物。川崎造船所社長、衆議院議員にもなった実業家です。
「日本に、本物の芸術作品が見られる美術館をつくりたい」という思いで、私財を投じてヨーロッパの絵画(=タブロー)を買い集めました。
しかし、第二次世界大戦が起こり、「松方コレクション」はフランス政府に接収され、日本に運ぶことは叶いませんでした。
失意のまま生涯を終えた松方幸次郎…しかし、生前の豪快で型破りな松方に惚れ込んだ男たちが立ち上がります。
「松方さんの夢だった美術館をつくるために」と、「松方コレクション」の奪還に力を尽くします。
第二次世界大戦の敗戦国である日本が、「戦後」の負のイメージを脱却して、先進国の仲間入りをするには、文化の力が必要だったのです。
そもそも松方が絵画に興味を持ったのは、徴兵制度を広報するポスターの絵がきっかけ。
また、松方が経営していた川崎造船所は、戦争の特需で高額な利益を得ました。
皮肉なもので、良くも悪くも広範囲に影響を及ぼすのが戦争なのです。
「革命前夜」須賀しのぶ|ベルリンの壁崩壊直前の音楽ミステリー
昭和が終わった1989年、舞台は東ドイツ・ドレスデン。ベルリンの壁に隔てられた「情報の谷間」。
眞山柊史(シュウ)は、バッハに惚れ込む一心で、バブル期の日本を飛び出し、ピアノを学ぶために東ドイツに音楽留学しました。
この国の人間関係は二つしかない。密告するか、しないか…。
今からたった30年ほど前、終戦から45年も経っていても、まだ第二次世界大戦の爆撃跡が残っていて、シュタージ(国家保安省)が国民を監視している…そんな社会。
豊かな西ドイツへの亡命が絶えず、お互いに監視し合い、密告を恐れています。
それでも、音楽は国籍や立場に関係なく、平等に降り注ぐ…。
シュウは、美しい金髪のオルガン奏者、クリスタに一目惚れ。
音楽にしか興味のなかったシュウも、クリスタや各国からの留学生たちと関わる中で、革命に巻き込まれていくのです。
平和を守るには、戦争を知ることからはじめよう
どんな時代、どんな場所にも、私たちと同じように、普通に生きる人たちがいるのです。
日本だけじゃなく、世界中に。
社会の教科書には載っていない、平凡な市民たちの暮らし、家族や友達、大切にしているもの。
フィクションだとしても、リアルに感じられる表現で、現代の私たちが戦争を考えるきっかけになるなら、それでいいと思うのです。
私たちひとりひとりが、戦争を知ることで、平和を守る意識ができるといいですね。
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本屋大賞は、本に詳しい書店員さんたちが「売りたい本」を選ぶ賞。
例年、面白い作品にたくさん出会えるので、注目しています。
この記事で紹介した「ベルリンは晴れているか」は、2019年本屋大賞3位に輝きました。
「熱源」は、2020年本屋大賞にノミネートされています。
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