将棋とミステリーが融合された、壮絶な人生ドラマが垣間見れる作品をご紹介します。
「盤上の向日葵」 柚月裕子
2018年の本屋大賞、2位に輝いた作品です。
暗い過去を持つ将棋界の異端児と、棋士の道を諦めて刑事になった男…。
将棋をめぐって、彼らが人生を狂わされていく様子が、痛々しくて切なくて、なんとも言えない気持ちになります。
「盤上の向日葵」柚月裕子|登場人物
「盤上の向日葵」は、個性的な男たちが織りなす熱い物語。
- 佐野直也…棋士になる夢を絶たれて刑事になった。
- 石破剛志…ベテラン刑事。捜査は一流、部下には傍若無人。
- 上条桂介…東大卒のIT社長だったが、異例のルートでプロ棋士に。
- 唐沢光一郎…桂介に才能を見出し、将棋を教えた恩師。
- 東明重慶…真剣師(賭け将棋のプロ)。裏社会とつながりがある。
だからこそ、どの登場人物にも、同情したり腹を立てたり、感情移入することができるのです。
「盤上の向日葵」柚月裕子|あらすじと内容
「盤上の向日葵」は、主にふたつの視点でストーリーが展開していきます。
- 佐野と石破が、白骨遺体事件の真相を追い、初代菊水月作の伝説の駒を探す
- 上条桂介の幼い頃からの生い立ち。父親に虐待されながらも、唐沢に将棋を教わり、希望を見出す
物語は、山形県天童市で行われている、将棋のタイトル戦の会場から始まります。
6冠を保持する若手棋士・壬生と、東大卒業後ITベンチャーで起業、成功したにも関わらず突如事業を引退し、異例のルートでプロ棋士になった上条の対局。
そこに佐野と石破がやってきたのは、他ならぬ将棋が事件に関わっているから。
天木山から発見された白骨死体には、時価600万円とも言われている初代菊水月作の将棋の駒が添えられていたのです。
遺体の身元と、犯人へとたどり着く手がかりになると見て、佐野たちは捜査を始めるのでした。
徐々に明かされる事件の真相に、息を呑む展開が続きます。
年間4人だけがプロになれる、厳しい将棋の世界
プロ棋士になるためには、奨励会という養成機関に所属する必要があります。
奨励会には、16歳までしか入れません。
入れたとしても、その先へ勝ち上がるまでに、さらなる年齢制限があり、26歳がデッドライン。
年に4人だけがプロになれるという、厳しい世界…。
佐野はプロ棋士を志していましたが、年齢制限の壁を越えられませんでした。
人生を賭けた夢が敗れて、もう将棋には一生関わらないと決めたのに、刑事になって将棋にまつわる事件を担当するなんて…人生とは因果なものです。
上条桂介の知られざる過去。父親の虐待、東明との出会い
上条には、暗い過去がありました。
長野県諏訪市で育った上条は、母を幼い頃に亡くし、父親にはネグレクト・虐待されて育ちます。
そんな中、元教師の唐沢が、桂介の置かれている辛い現状に気づき、一緒に将棋を指したり、衣食住の面倒を見るように…。
上条の並々ならぬ才能に気づいた唐沢は、「お金や生活の面倒は自分が見るから、東京に出て奨励会に入り、将棋のプロを目指しなさい」と言います。
ですが、桂介は父親を見捨てることができず、唐沢の申し出を断り、東大に進学するまでは地元にとどまります。
東京に出た桂介は、お金を賭けて将棋をする「真剣師」の東明と知り合い、彼の強引な行動に巻き込まれていきます。
刑事たちの追う事件と、上条桂介のこれまでの人生が交わるとき…新たな真実が見えてくるのです。
父親、真剣師の東明…どうしようもない大人が上条の人生を狂わせる
上条桂介は、頭も性格もよかったはずなのに、周りのどうしようもない大人に振り回されてしまいます。
東明は、将棋を指したら超一流なのに、人としてはどうしようもないクズ。
プロ棋士を目指そうと思えば、実力はあったのに、お金にルーズでちゃんと生きられない。
上条は、東明の自分勝手な振る舞いに呆れながらも、「東明の将棋が見たい」という欲求に抗えず、旅打ちに同行して…。
そこで、東明に騙されて、唐沢から譲り受けた大切な駒を売り飛ばされてしまいます。
父親は、東京に出てくるときに一切連絡を絶ったのに、上条の会社が成功したのを知って、お金を無心しに来るし…。
もし、上条が、真実を知らないまま、唐沢の庇護の元でのびのびと将棋を指せていたら…と思わずにはいられません。
「盤上の向日葵」が千葉雄大主演でドラマ化
「盤上の向日葵」は、2019年9月からNHKでドラマ化されます。
主演の上条桂介役は、千葉雄大さん。
キャストを見ると、佐野の役が蓮佛美沙子さんとなっていて、女性に変わっているようです。
柚月裕子さんは、不器用で生きにくい男を描くのが得意な作家さんなので、登場人物はほとんど男性。
「盤上の向日葵」柚月裕子|将棋と人生のままならなさを痛感する作品
才能があっても、家庭環境に恵まれず、努力を重ねてプロ棋士の道を切り開いたのに、足を踏み外してしまった上条桂介。
将棋の夢を諦めて、刑事になった佐野。
将棋の腕は確かなのに、お金にだらしない東明。
ひまわりの絵が有名なゴッホは、うまく生きられなくて、あがいて、もがいて、最後には自殺してしまいます。
ゴッホが葛藤したように、上条も、やりきれなさを抱えていたのでしょう。
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「盤上の向日葵」は、2018年の本屋大賞で2位。
そのとき、1位だったのは辻村深月さんの「かがみの孤城」です。
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