家族の形は、ひとつじゃない。
嘘つきで、逃げ腰で、ときに間違ったこともしてしまう、どうしようもない家族だけど、かけがえのない人たち。
家族のあり方を考えさせられる、残酷だけどあたたかい小説をご紹介します。
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嘘つきと言われる羽猫家。
みんな心が強くて弱くて、ボロボロに傷ついて、それでも優しくあろうとして嘘を選ぶしかなかったのです。
家族の嘘が解かれて、真実の姿が見えたとき、あなたはどう思うでしょうか?
「架空の犬と嘘をつく猫」寺地はるな|登場人物
「架空の犬と嘘をつく猫」に登場するのは、羽猫(はねこ)という変わった苗字の一家。
- 僕:山吹…主人公。家族のバランサーで、母に寄り添って嘘をつき続ける。
- 姉:紅…嘘が大嫌いで、早く大人になって家族から離れたいと思っている。
- 祖父:正吾…商売上手でもないのに、遊園地を作る計画などをする、夢見がちな老人。
- 祖母:澄江…嘘のいわくつきグッズを売るお店をやっているが、比較的まとも。
- 父:淳吾…現実から逃げ、嘘でやりすごし、愛人を作っている軽い男。
- 母:雪乃…青磁が死んだことを受け入れられず、生きているかのように振る舞っている。
- 弟:青磁…家族の希望の星だったが、4歳の頃、事故で亡くなった。
家族の形を保っていられるように、それぞれが無理をしている状態。
1988年から2018年まで、5年ごとに、30年もかけて語られるストーリー。
はじめは8歳だった山吹も、ラストには38歳になっています。
「架空の犬と嘘をつく猫」寺地はるな|あらすじ・内容
羽猫家は、「嘘つき」の家系と言われています。
次男の青磁を亡くしてから、まるで空想の世界で生きている母。
そんな妻と向き合わず、愛人の元にすぐ逃げる父。
「この家の大人はみんなおかしい」と反発する姉。
「山吹、遊園地のキャラクターにするから、羽の生えた猫の絵を描け」などと適当な思いつきで動く祖父。
お店の商品に「このアクセサリーは昔ある屋敷のお嬢さんがね…」と、嘘のエピソードをつけて売る祖母。
そんなめちゃくちゃな家で育った山吹は、小さい頃から、母が望む「嘘」に合わせたり、大人の様子を見ながら成長してきました。
そうしないと、家族がバラバラになりそうだったから…。
青磁のふりをして母に手紙を書く山吹、苛立つ紅
山吹は、「青磁は親戚のおじさんの家にいて、遠くの賢い学校に行ってる」ということにして、青磁のふりをして母に手紙を書いていました。
紅は「なんで本当のこと言わんと?いい子ぶって…」と怒ります。
だけど、母に真実を突きつけても、仕方がないこともわかっています。
ふさぎ込んで、数日寝込んで…目の前の紅や山吹は生きているのに、死んだ青磁のことばかり。
それに、ふたりとも、母が笑っていると嬉しいのです。
たとえ、青磁が生きているという幻想ありきの笑顔でも。
山吹の「架空の犬」は、生きていくために必要な存在
山吹は、子どもの頃から自分の力ではどうしようもないことが多すぎました。
そんなとき、架空の犬をなでて、かわいがって、心を癒やしてきました。
小さい頃に近所に住んでいて、すぐに離れ離れになった犬、ジョンみたいな。
本当は、まっすぐ現実に目を向けるべきで、世界への正しい立ち向かい方ではないのでしょう。
そんなことをしても、現実は何も変わらないって、山吹がいちばんよくわかっています。
どこにも行かれんよ、と山吹は言う。声が掠れた。行く場所なんかどこにもないのだ。
子どもには、お金も行動力もないから、現実が受け入れられなくても、どこにも行けません。
だから、今いる場所で現実とどうにかうまく折り合いをつけるしかないのです。
ひとりで架空の犬をなでていた山吹にも、成長して大人になった今、寄り添えるパートナーができ…自分のことのように嬉しい気持ちになれます。
無駄なもの、優しい嘘が現実を救う
祖母は、山吹に「あんたは社会にとって、なんの役にも立ってない子」と言います。
それだけ聞くととても冷たく、愛がなく感じる言葉。
だけど、祖母の本意は別のところにあります。
世の中は、役に立つものだけでできているわけではない。
プレゼントを飾るリボン、服につけるブローチ、ババロアに入れるバニラエッセンス…どれも見た目や香りを楽しませてくれるけれど、ただそれだけ。
でも、世界にキレイなもの、いい香りのもの、心が浮き立つようなものたちがなかったら、とたんに味気なく、色あせて見えるでしょう。
不器用で、ぶっきらぼうな言葉で、一般的な孫をかわいがるおばあちゃんという雰囲気はないけれど。
彼女なりに、紅や山吹を愛しているし、雪乃のことも娘のように思っています。
役に立たなくても、誰かから見て価値がなくても、生きていてほしいと思うほどに。
「架空の犬と嘘をつく猫」寺地はるな|まとめ
羽猫家は、とても長い回り道をして、ようやく今にたどりつきました。
結末に向かう2018年、山吹が語る青磁への思い、家族への感情は、涙なくしては読めません。
いろいろあったことを知っているから、山吹の未来が幸せであるように、祈らずにはいられないのです。
家族のあり方に迷う人、愛し方がわからない人にも、読んでみてほしい作品です。
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寺地はるなさんは、優しい作品を書かれる作家さん。
どの物語も、傷ついた人への愛にあふれています。
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