小説

「革命前夜」須賀しのぶ|時代と音楽に翻弄された、東ドイツの夜明け前

revolution-eve

この国の人間関係は二つしかない。密告するか、しないか…。

シーア
シーア
そんなぁ…誰も信じられなくなっちゃう!

たった30年ほど前、ベルリンの壁が崩壊する直前の東ドイツは、実際にそんな社会だったのです。

東ドイツ・ドレスデンを舞台にした、音楽と歴史の壮大なエンターテインメント小説をご紹介します。

「革命前夜」 須賀しのぶ

文藝春秋
¥1,034
(2024/10/08 09:50:38時点 Amazon調べ-詳細)

Kindle Unlimitedなら本・マンガが読み放題【30日間無料】

隣人すら信用できない、緊迫した世情で、音楽という言葉を超えた命題に挑む彼ら。

良くも悪くも、時代に翻弄され、音楽に救われ、そして叩きのめされ…。

息苦しい東ドイツを、ピアノの美しい音色が駆け抜けていく、ハラハラドキドキのストーリーは必見です。

ライト
ライト
「革命前夜」を解説するよ!

「革命前夜」須賀しのぶ|登場人物

「革命前夜」は、1989年のドイツが舞台。

シュウは、バブル期の日本を飛び出し、ベルリンの壁に隔てられた「情報の谷間」である東ドイツ・ドレスデンに留学してきました。

  • 眞山柊史…バッハに惚れ込み、ピアノに打ち込むために東ドイツにやってきた留学生。仲間からは「シュウ」と呼ばれる。
  • クリスタ・テートゲス…謎のオルガン奏者。東ドイツのシュタージ(国家保安省)に監視されている。
  • ヴェンツェル・ラカトシュ…ハンガリーの留学生で、バイオリン奏者。気まぐれで奔放だけど、演奏の腕は確か。
  • イェンツ・シュトライヒ…技術力の高い正確な演奏、誠実な性格。シュウの信頼する友人。妻のガビィもチェロ奏者。

他にも、留学先の音楽大学には、個性的で才能あふれる、各地からの留学生がいます。

北朝鮮の留学生・李や、ベトナムの留学生ニェットら…誰もが、東ドイツの灰色の空の下、革命に巻き込まれていくのです。

バッハに憧れる一心で、世間や政治には関心を示さなかったシュウも、例外ではありません。

「革命前夜」須賀しのぶ|あらすじと内容

昭和が終わった日、眞山柊史は東ドイツに降り立ちました。

第二次世界大戦の爆撃跡が残る東ドイツは、西ドイツに比べて貧しくて暗くて陰鬱ですが、音楽だけは街のいたるところに満ちています。

環境の変化で心が折れそうだったある日、教会のオルガンでバッハを弾く、金髪の美女・クリスタと出会います。

その演奏とミステリアスな表情に、衝撃を受けるシュウ。

彼女にもう一度会いたい…。

シーア
シーア
一目惚れみたいなものだね。

街中で偶然再会できたのに、クリスタは「外国人は苦手なの」とバッサリ。

それでも、クリスタの行きつけの店に通いつめ、ようやく話ができる関係に…。

ライト
ライト
シュウ、普段は押しが強いタイプじゃないのに、クリスタには粘ったよね。

クリスタは、東ドイツの国家保安省、シュタージの監視対象者。

理由は、西ドイツへの移住申請を出したから…。

シーア
シーア
…というけれど、それだけじゃなく、他にも理由がありそうな雰囲気。

相互に監視し、監視される社会

自分が親しい友人だと思っていても、角度を変えれば違う表情を見せる不気味さ。

距離が縮まるにつれ、クリスタの過去や本当の目的を知り、彼女を守りたい気持ちに突き動かされるのです。

わがままで奔放なヴェンツェルと、正確な演奏でいい奴のイェンツ

シュウは、バイオリン奏者のヴェンツェルに気に入られ、大学内の演奏会で伴奏パートナーを務めることになります。

シーア
シーア
ヴェンツェルは、組んだ相手の音楽をつぶしてしまうから、みんなには反対されるんだけど…。

実際に、前のパートナーだったニェットは、自殺未遂するほど追い詰められました。

演奏でも言動でも強烈な個性を放つヴェンツェルに振り回され、ひとりになればクリスタのオルガンが耳をちらつき、自分らしさを見失います。

李には「木っ端微塵」と言われる始末。

だけど、ヴェンツェルの音に魅せられる部分もあるし、何より、シュウは止められると反抗したくなる、あまのじゃくなタイプ。

「ここでやめたら逃げるみたいじゃないか。ヴェンツェルに飲み込まれっぱなしじゃ、こんな所まで来た意味がない。僕はこのままで、自分の音を取り戻すよ」

シュウがイェンツに言ったセリフはかっこよくて、周囲に反対されても東ドイツへの留学を貫いたのと同じ、意志の強さが見えます。

ライト
ライト
イェンツに「シュウは根性がある!」と感動して抱きしめられちゃうよ。

暗くて窮屈な時代でも、人の感情や覚悟、つながりや関係性は、変わらないのだなと思うのです。

シーア
シーア
この関係がずっと続けばいいのにな…。国とか関係なく…。

ハインツ氏、ダイメル家との交流|家族でも監視の目から逃れられない

シュウは、東ドイツ留学に、もうひとつ目的がありました。

父の旧い友で、長く文通など親交のあった、ハインツ・ダイメル氏のお墓参り。

シーア
シーア
シュウ自身は知らない人なんだけどね。

ダイメル一家は、シュウをもてなし、ハインツ氏が作曲した、ピアノやバイオリンソナタの楽譜を譲ってくれます。

特に、14歳のニナはシュウに懐き、日本の話を聞きたがります。

ですが、普通の幸せな一家に見えるダイメル家にも、裏事情がありました。

家族でも、監視の目は逃れられません。

ひとりでも、西への亡命者が出れば、一家もろとも…。

ライト
ライト
詳しくは、作品を読んでみてほしいな。

ニナは、ドレスデンのシュウの下宿に転がり込んできて、助けを求めます。

知り合って間もない、日本からの留学生に頼るしかないほど、誰も信じられないニナが痛々しいのです。

音楽の描写が素晴らしい!ピアノが聞こえてくる小説

「革命前夜」の魅力は、作者の須賀しのぶさんの卓越した筆力にあります。

特に、ピアノやバイオリン、オルガンなどの音楽を文章で表現することにかけては、音が聞こえるかのようにのめり込んでしまいます。

登場する作曲家は、シュウが尊敬するバッハはもちろん、ラフマニノフ、シューベルト、メンデルスゾーンなど、クラシックに疎くても知っている曲ばかり。

また、ハインツ氏の楽譜は、作品中でも重要な役割。

現実にはない曲なので、耳で聞くことはできないけれど、想像力をかきたてられます。

シーア
シーア
凝ったコード進行って書いてあったから、聞いたこともないような個性的な曲なんだろうな。

「革命前夜」須賀しのぶ|時代と音楽に翻弄される青年の運命

シーア
シーア
「革命前夜」は、歴史や音楽に興味がない人にも読んでほしいな。

日本が高度成長期で浮かれている頃、密告するか・しないかの探り合いが日常の国があった事実。

教科書だったら数行でまとめられてしまう歴史の中にも、苦しみながら生き抜いた人たちがいるのです。

私たちも、新しい時代を迎えられるといいね。

ニェットが、とびきりの笑顔で言った言葉が胸に染み渡ります。

いつの時代も、問題や課題が山積みだけれど、そのひとつひとつに真摯に向き合った先にしか、未来はないのです。

文藝春秋
¥1,034
(2024/10/08 09:50:38時点 Amazon調べ-詳細)

Kindle Unlimitedなら本・マンガが読み放題【30日間無料】

関連記事

「革命前夜」は、ベルリンの壁の崩壊直前、1989年のお話。

終戦から45年も経っていますが、戦争の影響がまだまだ残っています。

直接的・間接的問わず、戦争をめぐる小説をご紹介している記事をまとめました。

world-war-novel
【戦争をめぐる本5選】現代人こそ読みたい、知っておきたい過去を描いた小説現代を生きる私たちは、本当の意味では戦争の凄惨さを知りません。直接的・間接的問わず、戦争の影響を受けて人生が変わった人はたくさんいます。日本だけでなく、世界中の、どんな時代、どんな場所にも、私たちと同じように、普通に生きる人たちがいます。戦争にまつわる小説を5冊ご紹介します。戦争は良くないという言葉よりも、ずっと胸に迫りますよ。...

1945年、第二次世界大戦が終わった直後のドイツを舞台にした「ベルリンは晴れているか」も、壮大なミステリーです。

歴史はつながっていることを感じられますよ。

berlin-sunnyday
「ベルリンは晴れているか」深緑野分|戦争に翻弄された少女の歴史ミステリー第二次世界大戦のドイツで、理不尽な時代を懸命に生きる少女を描いた物語をご紹介します。2019年本屋大賞で3位に輝いた作品。荒廃したベルリンで、恩人の死を知らされた少女が、恩人の甥を探す旅に出ます。傷つきながら戦争で混乱した時代を生きるアウグステの自叙伝的なお話。重くて長いけれど、目を背けてはいけない迫力がありますよ。...
ABOUT ME
シーア
年間120冊の本を読んできた経験から、おすすめの本をご紹介します。 「絵本講師」の資格を持っています。大人にも子どもにも絵本の魅力をお伝えしたい! 夫・男子ふたり・犬と暮らすワーキングマザー。 仕事も読書も育児も、自分のやりたいことを全部諦めない、欲張りさんです。好奇心旺盛で、いろんなことに興味があります。
【Kindle】スマホで読書をはじめよう
シーア
シーア
小説もビジネス書も、全部自分のスマホ1台で読めるよ!

本を読みたいけれど、かさばるから持ち運びにくい、置く場所がない…とお悩みの方には「Kindle」がおすすめ。

いつでもどこでも、片手で読めるから便利。

私は、防水のiPhoneをお風呂に持ち込んで、Kindleで読書しています。

日替わり・週替わり・月替わりでセールがあるほか、Kindle Unlimitedでは、月額980円(30日間無料)で読み放題のタイトルもあるので、チェックしてみて下さいね。

ライト
ライト
紙の本よりもちょっと安いのもいいところ!
RELATED POST