三木笙子「人魚は空に還る」明治時代の幻想的な推理小説【帝都探偵絵図シリーズ1】【あらすじ・感想】

こんにちは。シーアです。(@seer_1118

人魚は空に還る 〜雑誌記者と美形絵師の交流が心温まる推理小説〜

  • 内容紹介(Amazonより)

「しずくは観覧車に乗りたい」富豪の夫人に売られてゆくことが決まり、最後の願いを口にした見世物小屋の人魚は、観覧車の客車から泡となって消えた。水神の怒りに触れて浅草は水中に沈んだのか。いや、地上という水底から人魚がその身を縛るもののない空へと還っていったのか──(表題作)。

心優しき雑誌記者と超絶美形の天才絵師、ふたりの青年が贈る帝都探偵物語。明治の世に生きるふたりの青年の交流をあたたかに描いた、新鋭の人情味あふれるデビュー作品集、新たに1編を加え待望の文庫化。

 

明治時代版、変わり種のシャーロック・ホームズ

舞台は明治時代の東京。主人公は至楽社の雑誌記者・里見高広です。英語が達者で、腕っぷしも強いけれど、普段はあたたかく落ち着いた性格です。

有村礼は、雑誌に絵を描けば飛ぶように売れ、彼の描く女性の絵は「美人の代名詞」とも呼ばれる帝都一の人気画家。なおかつ本人も美形なのです。しかし、性格は謙遜を知らない俺様タイプなのが玉に瑕。

高広は、礼が楽しみにしている英文小説「シャーロック・ホームズ」を和訳することで、親交を深めていきます。最初は「物で釣っているように思えて気が咎める」などと思っていた高広ですが、礼も高広のことを友と認めるようになります。

高広のあたたかく謙虚な人柄と、礼の傍若無人だけどどこか憎めないかわいらしさ。

ふたりが身の回りで起こる事件を解決していく様子は、「腰の低いホームズと高飛車なワトソン」と作中で例えられています。

「僕がワトソンでお前がホームズだ。さあ謎を解け」

5つの短編を収録 〜おすすめは「真珠生成」〜

本作では、表題作の「人魚は空に還る」をはじめ、5作品から成る短編集です。

  • 第一話 点灯人
  • 第二話 真珠生成
  • 第三話 人魚は空に還る
  • 第四話 怪盗ロータス
  • 第五話 何故、何故 ※文庫版のみ

どれも単体でも面白いのですが、それぞれにストーリーが関連していますし、作品ごとに登場人物の深みが増していくように感じます。

第一話 点灯人

高広の勤める至楽社に、森桜という少女がやってきました。行方不明になった兄を探してほしいというのです。

兄の名前は森恵(さとし)。彼は美術の才能があり、広告図案募集で賞を取って有名になりました。賞金を狙った誘拐でしょうか?

編集長の田所(あだ名は海坊主)に命じられて、高広は調査に乗り出します。ライバルの喜楽通信社の佐野(めっちゃ関西弁)も登場します。

森恵も佐野も、今後のストーリー展開にしっかり絡んでくるので、目が離せません!

第二話 真珠生成

私が特に好きなお話です。銀座の高級店「美妃真珠」から、プリンセスグレイスと名付けられた真珠三粒が盗まれました。

事件当時、高広の義父で司法大臣の里見基博が、娘・聡子(高広にとっては義姉)の結婚支度のため来店していました。その縁で、またしても高広はホームズ役に。

高広は、犯人の正体にたどり着きますが、いろいろあって、表沙汰にはしたくないと感じていました。そこで高広が語った言葉が、ズドンと響きました。

「(前略)真珠の成り立ちを教えてもらいましたね。その中心には異物があって、それを覆うようにして真珠はできるんだと。逆に言えば、その異物がなければ美しい真珠はできない。人だって同じようなものだと思うんです。馬鹿ばっかり繰り返すし、しょっちゅう間違ってばかりです。でも時間がたてば、そういう馬鹿や間違いが核になって真珠みたいな人間になるかもしれない

今読み返しても、胸が熱くなります。高広は、優しくあたたかい人なんです。だからみんな惹かれるし、礼も心を許していくんです。

第三話 人魚は空に還る

浅草で人気の興行は、人魚を見世物にしていました。子どもを演者に使い、仮面をまとった、どことなく怪しい集団です。

高広と礼は、知り合いの作家の小川が、座長に伝手があるとのことで、特別にチケットを融通してくれ、見に行きました。

そんな折、礼の知人で富豪の花遊夫人が、人魚は不老不死の薬になるからと買い取ろうとします。

身売りされる人魚は、最後の願いで観覧車に乗ります。空へ登る観覧車、水の中にいるようなたくさんのシャボン玉、消えた人魚…

人魚はどこに消えたのでしょうか。表題作であり、最も幻想的で美しいお話です。

作家の小川の筆名が最後に明かされます。彼の名は小川未明。この先のお話でもまた登場しますよ。

第四話 怪盗ロータス

帝都を賑わす怪盗ロータスから、警察に予告状がきました。大金持ちの大黒が所有する絵画を盗むといいます。

警察は躍起になって警備を強化しますが、豪邸は川に面した作りで、侵入するには難しい地形です。

本当にロータスはやってくるのか…怪盗を追う刑事・安西がここで初登場します。この先も、怪盗ロータスとは、シリーズ通じての長い戦いになります。

第五話 何故、何故 ※文庫版のみ

質屋に強盗が入り金が盗まれますが、警察の警備船に追い詰められた末に、せっかく盗んだ金を川にばらまいて火をつけてしまいます。何が目的だったのでしょうか?

礼の大伯父の秀芳が登場し、礼の幼少時代のエピソードが垣間見れますよ。

 

厳しい現実を突きつけるよりも、美しいもので心を満たそう

現実は厳しいのが世の常です。嫌なもの、醜いものであふれています。でも、数は少なくても、美しいもの、立派なものが確かにあります。それを拾い上げて、人の心に灯りをともし、生きる勇気を与えられたら。例えば、礼の描く絵のように。

事件が起きるということは、悪事を企む人もいます。でも、最終的には根底に善良さがあるので、安心して読めるんです。綺麗事が、綺麗なままでいられる世界です。

関係ないと思われるような出来事が、伏線になって、スルスルと真相に集結していく様子が、上手いなぁと感心します。解決までの道筋が大げさではなく、自然に流れていくので、サラサラと読めます。

 

帝都探偵絵図シリーズは計4作刊行

高広と礼が活躍する、帝都探偵絵図シリーズは、本作を含め、4作目まで刊行されています。4作目の「怪盗の伴走者」は、怪盗ロータスと、刑事の安西のスピンオフです。

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